Lodging resistance

prl5図★下位部の支持力を強化して倒伏を防ぐ

倒伏抵抗性の改良は草丈を下げることが主流となっています。しかしながら、この育種方向には更なる収量増加やバイオマス利用の観点から限界があります。そこで下位部の支持力の強化による倒伏抵抗性改良を目指した研究を行っています。これまで得た結果は以下の通りです。

1. 「prl5」の同定と機能

日本晴とカサラスの戻し交雑自殖系統群 (BILs) を用いて収穫期の下位部の押し倒し抵抗に関与するQTLの解析を行った結果、第5染色体上に「prl5」を発見しました。この結果から下位部の支持力に関与する遺伝的要因が明らかになりました。「prl5」を有する近似同質遺伝子系統 (NIL) を用いて機能を解析すると収穫期の下位部稈にデンプン等の非構造性炭水化物 (NSC) が多く蓄積していることが分かりました。(原著論文 3 )

2. 「prl5」の機能解析

prl5」を有するNILを使って、収穫期におけるNSC蓄積増の原因を解析した結果、止葉より下の葉身で老化の遅れが生じていることを確認しました。この結果から「prl5」は葉身の老化遅延に関与し、収穫期の稈内NSC含量増加及び下位部の支持力強化を引き起こすQTLであることが分かりました。(原著論文 7 )

3. 施肥条件が「prl5」機能に与える影響

多肥条件は収量増加に貢献する反面、草丈や上位部重の増加から倒伏が起きやすくなります。多肥条件下で「prl5」の機能が維持できれば、施肥量に関係なく倒伏被害の軽減に繋がると考えられます。そこで「prl5」の機能である葉身の老化遅延、収穫期の稈内NSC含量増加、下位部の押し倒し抵抗について多肥条件下での作用確認を行いました。解析の結果、「prl5」は多肥条件下においても慣行条件下と同様の機能を示すことが分かりました。(原著論文 15、特別研究員奨励費:19・3950 )

4. 「PRL4」の同定と機能

コシヒカリとNona Bokraの染色体断片置換系統群(CSSLs)を用いて収穫期の下位部の押し倒し抵抗に関与するQTLの解析を行った結果、第4染色体上に「PRL4」を発見しました。「PRL4」を有する導入系統(IL)を用いて機能を解析すると「prl5」と同様に収穫期の下位部稈に非構造性炭水化物 (NSC) が多く蓄積するが、葉身の老化遅延には関与していないことが分かりました。さらに基部節間の圧縮抵抗試験において、圧縮抵抗や剛性ではなく破断までの歪みを増加させる物理特性を示すことが分かりました。(原著論文 25、科研費 基盤研究C:20K05993 )

sdm8図★稈を太くして倒伏を防ぐ

倒伏抵抗性向上のための効果的ターゲットを明らかにすることは育種において重要です。そこで草型が異なるイネ10品種を用いて押し倒し抵抗値に関係する形質を探しました。その結果、稈の太さや重さが押し倒し抵抗値と正の相関を示すことが分かりました。倒伏と稈の太さや重さの関係はイネ以外にもコムギ等で同様の報告がありますので、稈の太さや重さを改良することは倒伏抵抗性改良のための重要なターゲットです。この理由から稈径を制御して倒伏抵抗性を改良する研究を行っています。これまで得た結果は以下の通りです。

1. QTLの同定と機能

日本晴とカサラスの戻し交雑自殖系統群(BILs)を用いて収穫期の稈径に関与するQTLの解析を行った結果、第1、6、7、8、12染色体上にカサラス型で稈径を拡大するQTLを発見しました。第8染色体上に位置するQTL「sdm8」について近似同質遺伝子系統(NIL)を用いた機能解析を行った結果、「sdm8」は稈壁を厚くして第2節間と第3節間を太くし、稈の重さを増加させることが分かりました。倒伏抵抗性における物理特性では「sdm8」は稈の物理強度を増加させるが、押し倒し抵抗には影響しないことが分かりました。一方で4つのQTLを有する系統を使って解析すると、「sdm8」では1.07倍程度しか稈径が太くならないのに対し、4つのQTLの作用では約1.39倍太くなりました。倒伏抵抗性における物理特性では、4つのQTLを有する系統は「sdm8」を有するNILと同等の稈の物理強度ですが、有意に強い押し倒し抵抗を示しました。これらの結果から、「sdm8」は稈壁を厚くして物理強度を増す効果があること、押し倒し抵抗の改良にはより太い稈径が必要であり、複数QTLの導入によって可能となることが分かりました。(原著論文 3、13 )

bsuc11図L上位部稈の物理強度を高めて湾曲型倒伏を防ぐ

コシヒカリ等の多くの品種は穂重等の上位部の重さにより稈が湾曲する「湾曲型倒伏」が生じやすい性質を有しています。実りの秋に穂が垂れるのは当たり前ですが、地面に穂がついてしまうと穂発芽等により品質が低下してしまいます。この問題を未然に防げる様に穂首節から下に位置する上位稈の物理強度を改良する研究を行っています。これまで得た結果は以下の通りです。

1. QTLの同定と機能

コシヒカリとカサラスの染色体断片置換系統群(CSSLs)を用いて収穫期の上位3節間の挫折抵抗に関与するQTLの解析を行った結果、第11染色体上に「BSUC11」を発見しました。上位稈の挫折抵抗に関与するQTLには特定の節間のみに作用するタイプと複数の節間に作用するタイプが存在していましたが、「BSUC11」は上位3節間を同時に強化できることが分かりました。さらに「BSUC11」による物理特性を解析した結果、コシヒカリで見られる出穂から2週目以降に生じる上位稈の物理強度低下を抑える効果があること、下位部の支持力には関与しないことが明らかになりました。(原著論文 19、科研費 若手B:23780014 )

2. QTLの機能解析

コシヒカリで生じる登熟期以降の上位部稈物理強度劣化抑制に関与する「BSUC11」を有する染色体断片置換系統(CSSL-BSUC11)を用いて、収穫期の上位3節間の形態学的特性と稈内成分特性を解析した結果、コシヒカリに比べてCSSL-BSUC11の第1節間皮層繊維組織が厚く、さらに上位部稈のホロセルロース含量が高くなっていました。倒伏抵抗性において重要な稈径や稈壁厚への影響が確認されなかったことに加え、皮層繊維組織厚の変化が第1節間のみであることから、「BSUC11」による上位部稈の物理強度劣化抑制には形態学的特性よりも稈内成分特性の変化、特に構造性炭水化物であるホロセルロースの蓄積特性が関係していることが明らかになりました。(原著論文 20、科研費 若手B:15K18632)

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