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イチゴのDNA鑑定

イチゴDNA鑑定

農林水産省「品種登録ホームページ」の「育成者権保護に関する情報」のページにある「DNAマーカー(CAPS法)によるイチゴ品種識別マニュアル」(PDFファイル)を参考に行います。

詳細な説明はこのPDFファイルに載っていますが、簡単に説明します。

なぜDNA鑑定を行うのか?

例えばおコメの場合、一番のブランドである「コシヒカリ」とラベルされているにも関わらず安いおコメを混ぜたり、という表示偽装の問題がしばしばおこっています。おコメの品種は形を見ただけでは分からないので、正確な品種名を知りたい場合はDNA鑑定が必要となります。(参考:バイオサイエンス教育研究センターでは農学部の学生実験および高校生向けにおコメのDNA鑑定を行っています。興味のある方はどうぞ。→遺伝子実験体験講座

イチゴの場合、最近問題になっているのが「植物の新品種の保護に関する国際条約 (UPOV条約)」(簡単にいえば著作権のようなもの)に違反し、権利者の許可を得ないで(そのイチゴが)栽培されていることです。イチゴもおコメと同様に見た目だけでは品種が分からないのでDNA鑑定が必要となります。

DNA鑑定とは?

品種によって違うDNAの配列を標的にし、その違いを識別する」ことです。DNAは生物の設計図とも呼ばれています。品種が違えばその設計図であるDNAにも違いがあるはずです。その違いを調べることがDNA鑑定です。

DNAの違いを知ろうと思えば、各品種のDNAの塩基配列を読めば分かります。しかし、DNAの塩基配列を読むにはシークエンサーという高価な機械が必要だったり、高価な試薬が必要だったり、時間がかかったり、そもそも品種間で1塩基ぐらいしか違いがないのに、シークエンサーを使うと500塩基ぐらい読めてしまい、残りの499塩基は品種間で全く同じなので意味がない、ということになり、「塩基配列を読む」ことにはたくさんのムダがあります。

我々が知りたいのは、ある遺伝子内の、品種間で差がある「たった1塩基のみ」です。この1塩基の違いをどのようにして検出するのでしょうか?その点に注意しながら勉強していきましょう。


DNAとは?

DNAは生物の遺伝子情報を持つ物質です。DNAは4種類のヌクレオチド(A,T,G,C)から成り、その4種類の並び方(塩基配列)が遺伝子の情報を決めています。DNAの情報はイチゴやおコメの味や色といった性質を決めています。

DNA1

染色体は長いDNAがコンパクトにまとまった構造をとったものです。輪ゴムの両端をねじっていくとだんだん短く・太くなりますよね?そんなイメージです。

DNA2

DNAは2本の鎖らせん構造をとった「二重らせん構造」をしています。
この鎖はヌクレオチドがつながったもので、ヌクレオチドは「糖」「リン酸」「塩基」から成ります。

DNA3

DNAと遺伝子

DNAの塩基配列には「遺伝子」と呼ばれる領域と「遺伝子ではない」領域があります。「遺伝子」の多くはメッセンジャーRNAに転写され、タンパク質に翻訳されます。タンパク質はさまざなま機能を持つ酵素の類や体を作る部品となります。
DNA4


DNA鑑定の原理

DNA鑑定は大きく分けて以下の5つのステップから成ります。

1.DNA抽出。
DNAはすべての細胞に含まれているため、基本的にどの部分を用いても構いません。へたの部分(がく片)が2,3枚あれば十分にDNAが取れます。犯罪捜査で「髪の毛1本でもあればDNA鑑定ができる」と言われていますので、もっと少ない量でも大丈夫でしょう。植物の組織をすりつぶし、タンパク質やポリフェノールなど、DNA以外のものを取り除くことで純粋なDNAを得ます。ここでDNA以外のモノが混ざっていると、次のステップで行う反応を阻害してしまいます。

2.PCR
あらかじめ品種間で塩基配列に差があると分かっている遺伝子を標的とし、その部分を含む領域(ヌクレオチドの数にして300~500個ぐらい)をたくさん増やす、いわゆるPCR法を行います。

イチゴのDNA鑑定では25ヵ所の異なる部分をPCRで増幅して解析します。

PCR反応は「反応液を94℃に温める。55℃に冷ます。72℃に温める」、という3ステップの温度変化を1サイクルとして合計35サイクル行います。それだけで目的のDNA断片がたくさん増えるのです。

下図は1サイクル目の説明です。「プライマー」とは、増やしたい領域の両端の塩基配列を持つ短い1本鎖DNAです。55℃に温度を下げたときにイチゴのDNAと結合できるように、ちゃんと設計されています。

PCR1下図は2サイクル目です。このように合計35サイクル行います。

PCR2

1サイクル終わると元の2倍に増えるので、理論上、35サイクル終わった後のDNAの量は235=34,359,738,368倍になります!(実際はもっと少ないです。)

3.制限酵素処理
増えたDNA断片を制限酵素処理により切断します。制限酵素とはもともと細菌が持つ酵素で、ウイルス(ファージとも呼ばれる)の感染から自分の身を守るために、ウイルスのDNAを切断するハサミのような道具です。制限酵素には認識配列があり、たとえばEcoRI(大腸菌由来の制限酵素で、我々はエコアールワンと呼んでいます)という制限酵素はDNAの配列の中から「GAATTC」という配列を見つけ出し、切断します。しかし、この「GAATTC」の配列を持たない場合は切断しません。

RE1

世の中にはいろんな制限酵素が売られており、自分の好きな場所でDNAを切断することが出来るようになっています。
ということは・・・

品種間で差がある塩基配列に制限酵素の認識配列をもってくることで、ある品種では(PCR法で増えた)DNAを切断するが、別の品種では切断しない、ということが可能になります。

例えば、PCR法で増えた500個のヌクレオチドから成るDNA断片をある制限酵素で処理した場合、ある品種では切断され、200と300に分かれる。一方、別の品種では切断されずに500個のまま、という感じになります。

イチゴのDNA鑑定ではPCR法により増えた25個のDNA断片をそれぞれ1種類の制限酵素で処理します。制限酵素処理により長い1種類のDNAが2~数種類の短いDNAに切断される品種もあれば、全く切断されない品種もあります。

4.電気泳動
最後に(上の例で言うと)この500個のヌクレオチドと、200と300に分かれたDNA断片を調べるために電気泳動を行うことでこれらを分離させます。電気泳動とは寒天(ゲル)の中にDNAを入れ、電気をかけることで、DNAを移動させる手法です。DNAはマイナスに荷電しているため、マイナス極からプラス極に向かってゲルの中を移動していきます。ただ、500個のヌクレオチドは構造的に大きいために移動速度が遅く、一方、300個のヌクレオチドは比較的早く、200個のヌクレオチドはさらに早く移動することになります。

下図は電気泳動の様子の模式図です。
Loading dye(色素)を反応液に混ぜてゲルの穴に入れます。色素を使う理由は2つあります。1つ目は比重を重くすること。重くないとゲルの穴から出てしまう可能性があります。2つ目は色をつけることで「ちゃんと反応液が穴に入ったか?」「電気泳動がどれぐらい進んでいるか?」を確認することができます。

EP1

5.判定
電気泳動が終わると、今度はDNAの場所を見れば判定可能になります。ただし、そのままではDNAは透明であるので分かりません。そこでエチジウムブロマイドという試薬を使ってDNAを染色します(あらかじめゲルの中に入れておいてもよい)。エチジウムブロマイドはDNAの2本鎖の間に入る性質があり、また、紫外線を当てることで光ります。つまり、電気泳動の終わったゲルに紫外線を当てるとDNAが光る、ということです。

このような操作を合計25ヵ所の場所で解析します。1ヶ所あたり2~6通りのパターンに分かれます。

場所1では2ヶ所、場所2では6ヶ所、場所3~6ではそれぞれ3箇所、場所4では2ヵ所、・・・、場所25では3ヵ所という感じで、全部で何パターンあるか、単純に計算すると

2×6×3×3×3×2×・・・×3=99,179,645,184 通りになります。逆にいえば、DNA鑑定の結果、25か所ともある品種と一致する確率は1/99,179,645,184(約1000億分の1)!ということです。(ただし、これは単純な計算によるものなので、実際は近縁な品種では偶然に一致する可能性があります。)


DNA鑑定にチャレンジしよう!

あるイチゴを使って実験を進め、電気泳動まで終わりました。普通の蛍光灯の光で見るとこんな感じです。ゲルの下の方にうっすらと色素の青い色が見えます。
no-UV

上に何箇所か穴がありますが、そこに制限酵素処理をしたDNAの溶液と色素を混ぜて入れ、電気泳動を行いました。DNAは下方向(プラス極)に向かって移動しているはずです。しかし、この写真では紫外線を当てていないので何も見えません。(ゲルの底面(向こう側)にはラップを敷いているのでちょっとシワが見えます。)

さて、ゲルに紫外線を当てましょう。

すると・・・


with-UV

DNAが光りました!各レーンには番号を振っています。一番左(M)はマーカーです。マーカーとは予めサイズの分かっているDNA断片のことで、サンプルのDNAの長さ(ヌクレオチドの数)を調べるときの参考になります。例えば1番目のレーンはマーカーの500塩基と600塩基の間に来ているので、大体550塩基ぐらい、6番目のレーンでは200塩基と300塩基の間に2本ある(200ちょいと300弱の2種類)、ということが分かります。

さて、この写真を使ってDNA鑑定を行います。

1番から25番までの各レーンのパターンを「DNAマーカー(CAPS法)によるイチゴ品種識別マニュアル」を見ながら分類していきます。すると以下のような結果になりました。

result

さて、このイチゴの品種は何でしょうか?(25ヵ所全て一致する品種は"とちおとめ"と判定されました。)