★玄米成分を制御して炊飯米の食味を改良する
食味を目的とした育種を行う場合、個体から収穫される玄米サンプルが少ないため炊飯米の評価が難しく、収量などの形質のような交配後の個体選抜はできません。そこで炊飯米の食味を直接ターゲットにするのではなく、食味に関与する玄米成分を指標に育種を進めることが効果的な方法と考えられます。さらに玄米成分の遺伝的要因となるQTLを利用すれば、より効率的な育種が可能となります。このような玄米成分QTLを利用した食味改良を実現していくために研究を行っています。これまで得た結果は以下の通りです。
1. QTLの同定と炊飯米物理特性への影響
コシヒカリとNona Bokraの染色体断片置換系統群(CSSLs)を用いて食味に影響する玄米成分であるタンパク質とアミロース含量に関与するQTLを解析したところ、3カ年安定した機能を示すQTLがそれぞれ第12染色体(TGP12)、第6染色体(AMY6)に同定されました。タンパク質やアミロース含量に関与するQTLは他にも見出しましたが、その多くは年によって検出されない不安定なQTLであることがわかりました。安定した作用を示す「TGP12」及び「AMY6」について炊飯米物理特性への影響を調べた結果、「TGP12」はアミロース含量や粒形を変えることなくタンパク質含量を約10%程度減少させる効果を有するが、炊飯米物理特性には安定した影響を与えていませんでした。一方でWx遺伝子が関与していると考えられる「AMY6」はタンパク質含量を同等のままアミロース含量を1.5倍増加させ、炊飯米の硬さを1.9倍、粘りを0.3倍、付着性を0.4倍に変化させました。これらの結果から、「AMY6」の機能はインディカ米の「硬く、粘り気が少ない」特徴に大きく関与しており、一方「TGP12」は遺伝学的な玄米タンパク質含量制御に関与しているが、炊飯米物理特性改良には寄与しないことがわかりました。今回炊飯米物理特性に影響しなかった玄米タンパク含量は食味の間接的指標として生産現場で重要視されています。「TGP12」のような機能は、玄米タンパク含量と食味の関係を理解していく上で重要な知見になりうると考えられます。(原著論文 22 )
2. 多肥条件が「TGP12」機能に与える影響
多肥は収量を増加させるために必要な条件ですが、多量の窒素を与えると米の食味が低下することが問題となります。特に出穂以降に与える実肥は登熟を高めますが、米のタンパク質含量が増加して食味低下につながります。低タンパク化はこのような多肥による影響を抑えることが考えられるので、「TGP12」によるタンパク質含量低下が多肥条件下でどのような効果を示すのか試験しました。異なる多肥条件下として、基肥2倍区と基肥1.5倍+実肥0.5倍区を作成し、それぞれ2年ずつ玄米成分特性、収量特性、食味特性への影響を調べた結果、「TGP12」によるタンパク質含量低下は基肥2倍では維持されましたが、実肥を含む多肥条件では効果が抑制されました。また収量に関しては、「TGP12」導入系統でも基肥2倍による穂数増加、実肥を含む多肥条件での登熟歩合の向上が確認されました。一方で食味関連形質については、遺伝子型や施肥条件よりも実験年による影響が大きいことが確認されました。遺伝子型と施肥条件の相互作用から、実肥を含む多肥条件による玄米のタンパク質やアミロース含量、さらに収穫期の葉身SPAD値への影響が「TGP12」導入により変化することが示唆されました。以上の結果から、「TGP12」は実肥を含む多肥条件では効果が抑制され、さらにアミロース含量や葉身の老化への影響も変化することが分かりました。一方で「TGP12」導入品種では基肥での多肥が適しており、低タンパク化と多収化の両立が可能と考えられます。(原著論文 24 )