カイコは養蚕業に用いられ、シルクを生産する昆虫です。カイコは、およそ7000年前から人類による家畜化が始まったと言われ、長い年月をかけて素晴らしい糸を吐くように改変されただけでなく、逃げない、飛べない等、既に人の手がなければ生きていけないほどに完全に家畜化されている昆虫です。またカイコは、既にゲノム情報が明らかなだけでなく、数万のEST情報が整備されており、また数百の系統がバイオリソースとして維持されています。更にカイコは、動物で初めてのメンデルの法則の再発見や、雑種強勢の発見にも用いられており、非常に優れたモデル昆虫と言えます。
一方で昆虫に感染する昆虫ウイルスもまた非常に興味深いウイルスです。特にバキュロウイルスは大型のDNAウイルスであり、DNAポリメラーゼだけでなくウイルス独自のRNAポリメラーゼも持っています。また、宿主のアポトーシス(自殺)を阻止する遺伝子や、脱皮を阻害する遺伝子、行動を制御する遺伝子、表皮を溶かしてしまう遺伝子など多彩な遺伝子を持つだけでなく、宿主の分子シャペロンやユビキチンプロテアソームシステムをも利用してしまう程に、極めて効率的に宿主を制御しています。その結果、宿主の全タンパク質の3割を占めるほどの封入体タンパク質を生産することができます。現在ではこの封入体タンパク質の遺伝子を組換えることで、獣医薬のインターフェロンやヒトの子宮頸ガンワクチンの生産などが行われています。
私達は、このような驚異的な昆虫・昆虫ウイルスの新しい機能を明らかにし、これらを利用することで、新しい有用物質の生産系の開発などに貢献したいと考えています。また、このような研究を通して、遺伝子工学の理論と技術を身につけた人材を輩出したいと考えています。