研究概要

植物ウイルスの感染メカニズムの解明と、ワクチンを用いたウイルス病防除法の確立

人間の病気と同じように、植物も病気にかかります。病害による農作物の減収はアメリカだけで1年間に1兆円以上で、ウイルス病による農作物の減収は日本だけで数百億円と試算されています。もし少しでも病害を減らせるならば、今後予想される爆発的人口増加による食糧問題の解決の一助となるでしょう。また、最近では、無農薬や減農薬で病気を防除する方法の確立という「環境にやさしい」農法も求められています。

植物病理学研究室では、安定した安全な食料供給を目指して、農作物の病気の防除、特にウイルス病に関する研究を行っており、ウイルスの遺伝子解析や新しい検出法の開発、分子生物学的・遺伝子工学的手法による耐病性植物の解析・作出やワクチンウイルス(弱毒ウイルス)の開発などを行っています。

特徴と強み

ワクチン開発と「食」の安全

植物病理学研究室は、バイオサイエンス教育研究センターの設備も利用し、遺伝子組換えウイルスの接種実験などを行うことで、ウイルスの感染メカニズムの解明を行っています。また、新たに開発したワクチンがどうして弱病原なのか、なぜ予防効果があるのか、などを遺伝子レベルで解明しています。
扱う材料は様々で、キュウリなどウリ科、トマトなどのナス科、ダイズなどのマメ科といった主要な農作物に加え、栃木県の特産品であるイチゴ、ビール麦なども扱っています。
ワクチンを接種した苗は高品質農作物の安定生産、化学農薬使用量削減による環境保全型農業の促進、消費者の「食」に対する安心感・信頼感の向上、などに寄与するため、
非常に高い評価を得ています。
また、さまざまなワクチンを開発したり遺伝子解析するだけでなく、府県の公的研究機関、企業等との産学官連携により、その実用化まで視野にいれた共同研究を推進している点が大きな特徴です。

今後の展開

ウイルス遺伝子の機能解析とウイルス病防除法の開発

地球の温暖化により、新しいウイルス病が発生、あるいは既知のウイルスの発病時期が早まって劇症化して、「エマージングウイルス病」と呼ばれて問題となっています。たとえば、これまで熱帯地方や亜熱帯地方にだけ発生していたウイルスとその媒介虫が北上し、新天地で一気にその勢力を拡大して農作物に大きな打撃を与える例が増えています。
私たちは、地球の近未来を見据え、日本に限らず、海外の農作物に被害を及ぼすウイルスを対象にした研究も始めています。
ウイルスのゲノムは種によってRNAであったり、DNAであったり、さらに1本鎖、2本鎖、環状など、さまざまです。このように非常にバラエティーに富んだウイルスを研究対象としているため、単に「遺伝子の機能解析」と言ってもウイルスごとにその戦略は異なります。私たちは、これまでの経験を活かして、ウイルス遺伝子の機能を解明し、ワクチンによる防除法に限らず、そのウイルス種に合った防除法の開発に取り組みたいと考えています。

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番外編

イチゴのDNA鑑定